電子レンジ用マグネトロンの年代別技術発展:効率向上・耐久性・出力強化の軌跡

マグネトロンの歴史

はじめに

マグネトロンは、1921年にアメリカのハル博士により発明され、その後、第二次世界大戦中にレーダー用としてパルスマグネトロンの研究・開発が加速されました。 戦後、レーダー・通信用以外にする研究が進められ、アメリカのレイセオン社が連続波マグネトロンの開発に成功して、1949年に世界初の電子レンジを試作しています。 1955年には、アメリカのタッパン社がレンストラン、家庭用に電子レンジの販売を開始して、その後の普及に貢献しました。
日本では、東芝とシャープが1962年に電子レンジの生産を開始しています。
東芝のマグネトロンの量産は、川崎にある東芝堀川町工場で産声を上げ、現在に至っております。
現存するマグネトロンメーカーの中では、東芝は最も長い歴史を持っています。

1.黎明期(1959~1965)

1959年に、東京芝浦の研究所で、日本で最初の電子レンジを開発し、防衛庁に納入されました。
この電子レンジ用に開発されたマグネトロン2M20は、レイセオン社のマグネトロンを手本としたものでした。
1960年には、2M21を開発し、1962年には国鉄のビュッフェ用電子レンジに採用されています。
しかしながら、依然としてアメリカ製マグネトロンを分解、ノギスで寸法を測定する事が設計の第一歩であり、生産も月に 数十~数百本の時代でした。

[イメージ]2M21(1960)

2M21(1960)
初めて国鉄の食堂車搭載の電子レンジに採用された。
Raytheon QK707が原型。

[イメージ]2M66(1966)

2M66(1966)
家庭用電子レンジに使われるマグネトロンの原型。

2.飛躍期(1966~1971)

1967年に永久磁石を内蔵したマグネトロン2M52、1969年には更にコンパクト化した2M53を自社開発しました。同時期にマグネトロンに関するレイセオン社の基本特許の有効期限切れに伴い、日本でも松下電子、日立製作所、新日本電気が、電子レンジ用マグネトロンの生産を開始しています。
1969年には、日本国内の電子レンジ販売は、38万台に達し、普及が加速されました。
1971年には東芝の2M53が、アメリカのリットン社に採用されました。
東芝マグネトロンの技術がアメリカのマグネトロンメーカーに対抗できるレベルになった、エポック的な出来事でした。

3.躍進期(1972~1983)

アメリカのマグネトロンメーカーは製造から撤退し、日系メーカー4社が世界中に電子レンジ用のマグネトロンを供給する状況となり、日系メーカー間の競争が激しくなりました。
コストダウン、特性改善の要求に応えるため、1972年には、現在のマグネトロンの原型ともなるべき、フェライト磁石、 横吹き冷却構造の2M57を開発、1983年には現行のマグネトロン全てに採用されている10分割アノード構造(従来は 12分割)の2M172Aを開発しました。
お客様(電子レンジメーカー)への技術サービスを強化するために、応用技術課が設立され、お客様の技術的な要望を設計に取り入れると共に、電子レンジのマイクロ波関係の設計アドバイスを行いました。

[イメージ]2M53(1969)

2M53(1969)
アルニコ磁石をラジエータの内側に収納した世界初のパッケージ型マグネトロン。

[イメージ]2M57(1972)

2M57(1972)
世界初のSrフェライト対面磁石内磁形。改良型の2M57-Aが一時代を作った。

[イメージ]2M172A(1983)

2M172A(1983)
世界初の10枚ベイン。(従来までは12分割)

4.成長期(1983~1989)

既に、電子レンジの先進国であったアメリカ、日本以外の欧州、韓国での電子レンジの普及が始まりました。
市場の拡大に伴い、韓国メーカー3社が、電子レンジとマグネトロンの生産を開始し、マグネトロンメーカー間の競争が激化して、開発、コストダウンが進みました。
1988年には、衛星通信放送の開始に伴い12GHz帯のノイズ規制が厳しくなりましたが、この周波数帯はマグネトロンの第5高調波に当たるため、高調波抑制のために、アンテナに同軸チョーク構造を採用した2M240を開発し、これはマグネトロンのアンテナ構造の世界標準となっています。

5.成長・成熟期(1990~)

1990年にマグネトロンの製造を、1992年には事業を全面的に東芝より東芝ホクト電子に移管いたしました。 また、2000年には、現在のToshiba Hokuto Electronic Devices Thailand社の前身であるToshiba Display Device Thailand社に製造を移管して現在に至っています。
東芝ホクト電子に事業移管後も、お客様の要望、法的な規制強化に対応して、2000年には高効率管2M282を、 2001年には放射ノイズを改善した2M253-Zを開発しました。

[イメージ]2M240(1988)

2M240(1988)
アンテナに同軸チョーク構造を採用した、世界初の短アノード

[イメージ]2M253(1995)

2M253(1995)
高安定度管 世界初の低放射ノイズ管

6.変革期(2002~2010年代)――省エネ・低ノイズへの対応

2000年台に入ると世界的な省エネルギー要求と規制対応が強まり、電子レンジでもより高効率なマグネトロンが求められました。 当社は2007年、高効率マグネトロン「2M303」を製品化(省エネラベリング制度対応モデルとして普及)。その後、2M303の高効率を維持しつつ負荷安定性を改善した「2M403/E4500」も開発し、扱いやすさと高効率の両立を図りました。​

7.現在(2020年代~)――産業用途の拡大と高出力化​

2020年代に入ると、電子レンジ市場は成熟が進む一方、工業用加熱・プラズマ・材料処理・一部医療用途など、電子レンジ以外の分野で連続波(CW)マイクロ波の需要が拡大。当社は「高効率・高信頼・低環境負荷」を軸に、家庭用と産業用の双方で製品群を拡充しています。
産業用(2.45GHz・CW)では、0.3~1.5kWの小~中出力帯においてラインナップを強化し、用途に応じた細かな出力選択が可能となりました。特に水冷タイプの E5512W・E5513W・E5515Wは、安定性と耐久性に優れ、産業装置での採用実績が多い中核モデルです。さらに、6kW帯ではE3327/E3327L(水冷)を展開し、より大きな処理能力を必要とする装置に対応しています。また、12kW級の E2712(水冷)を新たにラインナップに加えることで、高出力化が進む最新の産業用マイクロ波加熱ニーズにも対応可能となりました(E2712は2025年発表)。