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特集:技術者コラム(サーマルプリントヘッドの歴史)

歴史編

平成18年9月28日
東芝ホクト電子株式会社
大島 信洋

1.はじめに

たぶん世の中の多くの人にとって、そしてこのホームページを訪れていただいた多くの方にとってもサーマルプリントヘッド(Thermal Print Head:TPH)という言葉はあまり耳慣れたものではないのではないかと思います。プリントヘッドという からには、なんらかのプリンターと関係あるのかな?といった具合ではないでしょうか。TPHという言葉でピンと来るのは同業者の方かお客様、あるいは大変熱心な部品材料業界の方といったところかと思います。ただこのTPHというのは意外に多くの場所に使われているので、所謂業界の方でない皆さんにもトリビ アとしてのお役には立つかもしれません。

2.ソフトコピーとハードコピー

世の中の画像情報は、基本的にはソフトコピーとハードコピーに大別され ます。ソフトコピーというのは、液晶やブラウン管などに表示された画像であって、基本的には書き換えが可能です。一方ハードコピーというのは、紙やフィルムにインクなどで記録された情報であって、通常は書き換えが出来ません。印刷物や写真などがその代表的な例です。TPHを用いた記録も代表的なハードコ ピーであって、一般に感熱記録方式と呼ばれています。最近では電子ペーパーやリライタブルペーパーなどというものが発明され、両者の境界は曖昧になってき てはいますが、普通の生活の中ではこの識別方法であまり問題はありません。

[イメージ] サーマルプリントヘッド

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3. ハードコピーの歴史

ではハードコピーには一体どんな方式があるのでしょうか。少なくとも全ての印刷物はハードコピーなわけですから、その全てをここでご説明するわけには行きません。そこで時間の経過をたどりながら、その発展について簡単にご説明していきたいと思います。
まず、最初の代表的なハードコピーは紙とインクあるいは墨を用いたものです。これは人類史上でも特筆すべき発明のひとつであって、随分と永い期間使われました(今でも使われていますね)。この方式の長所は人が記録したいと思うものをそのまま記録できるという事です。一方短所は記録の出来栄えが人の技量によって異なる事、一度にたくさんの記録を行なう事が出来ない事でした。
その後、一度にたくさんの部数を記録したいという要求に合わせて、原版にインクを塗って印刷する方式が発明されました。印刷の歴史は意外に古く、東アジアでは7世紀には木版印刷、11世紀には陶器製活字による印刷が開始されていたと考えられます。写真は現在はっきりとした形で残っている世界最古の木版印刷書である金剛般若経で868年に作成されたものです。これらの印刷技術は15世紀ドイツの金細工職人グーテンベルクが発明したとされる活版印刷で大きな進歩を遂げます。鉛合金で作られた鋳造活字(文字のはんこのようなものです)を箱のようなものに文章の形で組んで、それを原版として印刷を行なう方法です。写真はグーテンベルク印刷機によって印刷された42行聖書の第1ページです。この方式は極めて長く使用され、戦後の日本でもこの方式を使い続けていました。ちなみに現在ではこの方式はほとんど写真植字印刷の一種であるオフセット印刷に取って代わられていますが、原版を作ってこれにインクをつけて紙に転写するという基本的な部分は変わっていません。

この時点で大量記録については、ほぼ当初の目的は達成されたといえます。ただその対極にある欲求、すなわち1枚毎に中味の変わるハードコピーを取りたいという欲求については、永い間良い方法が見つかりませんでした。手書きに代わるものといえば唯一19世紀に商品化されたタイプライター方式:であり続けました。このタイプライターは大変便利でお手軽ではありましたが、幾つかの欠点を持っています。まず第一に文字しか書く事ができない:写真や画像を書く事は出来ません。第二に文字にしても決まった形と大きさのものしか書く事ができない。第三に中国語や日本語のように多くの文字を使用する場合には、器具そのものが大変大掛かりになってしまう。これらの欠点を克服する事は大変難しい事のように思われました。しかしここで一つの新たな発想が新しい記録方法を生み出す事になりました。そして、個別記録:Print on Demand:の世界が始まりました。

[イメージ] グーテンベルグ印刷機によって印刷された聖書のページ/世界最古の木版印刷書
フリー百科事典『ウィキペディア』より転載

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4. デジタルとアナログ

その契機となった発想とは、文字や画像をまとまったものとは考えずに、白と黒との点の集合体として考えるという発想でした。そして記録するにあたっては、その内容ではなく、白と黒を忠実に再現してゆけばよいと考える。そうすれば文字であろうと画像であろうとあらゆる画情報を記録する事が可能となります。つまりアナログからデジタルへの転換が新たな記録方式を幾つか生み出したといえます。
その中で代表的なものを三つばかりご紹介します。
まずは電子写真方式で、これはコピーやオフィスに設置してあるレーザープリンタがその代表格です。原理は難しくなるので省略します。
次がインクジェット方式で、大変細いノズルからインクを必要な箇所だけに吹き付けることで記録を行ないます。これは皆さんパソコンの脇においてお使いでしょうから多くの説明は必要ないと思います。
そして最後が感熱記録方式で、基本的には一列に並んだ細かなヒーターをON/OFFさせる事で、熱によって変色する記録紙の必要箇所のみを変色させる事で記録を行ないます。皆さんの周辺ではFAX、切符、ラベルなど多くのハードコピーに使われています。女子高生に人気のプリクラもこの感熱記録方式を使っています。
やっと感熱記録に到達したところで、今月はここまでとさせていただきます。

[イメージ] レーザープリンター/プリンター

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